芸術科学会が発足してはやくも七年目に入り、発足後まもなく創刊された本論文誌も五年目を迎えた。当初から論文委員長を務めてこられた伊藤理事をはじめとする、関係者の皆様の多大の努力によって、学術界の中で今日のような重要な地位を占めるに至ったのはすばらしいことだと考えている。

本論文誌が扱う領域は、映像技術系、美学系やデザイン系、社会科学系や自然科学系などの研究分野を漠然とした形で広く包含する。またWebやアニメーションに代表されるデジタルコンテンツ系領域は情報科学や映像・デザインなどの旧来の枠組みに収まりきれない勢いで膨張しつつある。このような学際分野の維持統合がいかに困難であるか、これまで幾度となく試みられ消えていった art &technology 運動の歴史を振り返れば容易に想像がつくことだろう。

一例を挙げれば、近年多く新設された情報メディア系・メディア芸術系大学の博士課程の学位審査に利用できるような、そのような学生の論文投稿の受け皿となり得る権威ある論文誌を作りたいということが、本学会に所属する大学教員や学生の当面の目標の一つであった。しかしこのこと一つ取り上げてみても、学生をいかに集め育てるか、誰にどのようなカテゴリーの論文を書かせるか、論文の体裁や採録条件をどうするか、誰に査読を依頼するか、といった多くの未解決の問題が含まれていることがわかる。

学会立ち上げ当時、私たちはあまりにもナイーブで楽観的だったが、苦心惨憺な試行錯誤を通じて、今では芸術と科学の融合に何が必要なのか、つまり、私たちは双方からどこまでは歩み寄れるがどこから先は妥協し難いか、どこまでは理解しあえるがどこから先は立ち入るべきではないか、どの部分でならば共通の理解と利害の一致を見るか、すなわち芸術と科学の融合を学会として標榜し論文を発行していくということはいったいどういうことなのか、おぼろげながら学んできたように思う。このようなノウハウは現在論文誌編集活動としてはほとんど唯一本学会だけが蓄積しつつあると自負している。

芸術と科学の融合というテーマは、いずれにしても数年やそこらで達成できるものでもなく、また一時の謳い文句としてもて囃せばよい問題でもない。これまでの経緯に基づいて論文編集委員会も組織の見直しや人の入れ替わりが予定されている。無理をせず地道に継続していければと考えている。